「縛られてみたい」女性が思わず口にするHajime Kinokoの緊縛アート
緊縛。縄で身体を縛り身動きが取れないようにすること。一般的にはSMプレイのひとつとして捉えられている。経験はなくても「亀甲縛り」という言葉を聞いたことがあるだろう。
緊縛を生業にした新進気鋭のアーティストがいる。
Hajime Kinoko。ロープアーティスト、現代アーティスト、緊縛師、フォトグラファー。
2006年、緊縛師「一鬼のこ(はじめきのこ)」としてデビュー。
その活動は幅広く、フェティッシュバーやクラブで行われる様々なイベントでの緊縛ショー、「DIESEL」「CHRISTIAN DADA」などファッションブランドのレセプションでのパフォーマンスやインスタレーション、「週刊プレイボーイ」のグラビア、本好きが集まって感想を語り合う「読書会」でのSMショー、安全性と美しさを追求した緊縛講習会やプライベートレッスン、自らカメラを持ち撮影した写真の展示や写真集出版、2010年からは本格的に海外に進出し、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、アメリカなど多くの国でワークショップとショーを行い、今もその活動の範囲はどんどん広がっている。
私が緊縛という言葉からイメージしていたのは、作務衣姿にサングラスをかけたいイカツイ男性がか弱い女性を縛り上げ、鞭で叩き、蝋燭をたらす、そんな暴力的なイメージだった。
はじめて緊縛ショーに出会ったのは下北沢のライブハウス。「放送禁止」をテーマに掲げたイベントだった。そこで見た緊縛ショーはまさにイメージ通りで、作務衣にサングラスの男性が女性を縛り、鞭で叩き、蝋燭をたらした。まだ10代だった当時の私にはとても衝撃的なことだった。
もう一度見たいと思ったけれど、どこへ行けば見ることができるのかわからなかった。どこか特別な場所、例えばSM愛好家が多く集まるお店や劇場へ行かなければならないと思った。興味はあるけどそこまで調べる方法が思いつかなかったし、周りに聞ける人もいなかった。その思いを何年も持ち続けていた。
8年前、友人の紹介で知り合ったカメラマンがフェティッシュバーに連れて行ってくれた。入口のインターホンを押すと中からスタッフが応答する。顔を確認するためだろうモニターがついている。カメラマンが名前を言うと自動ドアが開いた。生まれて初めて行った会員制のフェティッシュバー、そこのマスターがHajime Kinoko氏だった。
週末になるとイベントが行われていて、そこでHajime Kinoko氏の緊縛ショーをはじめて見た。衝撃だった。10代の衝撃とは違う衝撃だった。あのときは女性をいたぶる荒々しい姿に驚いただけだった。されるがままの女性の胸や腰に食い込む縄や響き渡る鞭の音にビックリしただけだった。Hajime Kinoko氏の緊縛は違った。なにもかもが美しかった。
モデルの見事なプロポーションは驚くほど美しかった。美しい肢体をさらに美しく見せる赤い麻縄。白い肌にたらされていく赤い蝋燭のライン。二人が作り上げる世界に圧倒された。
緊縛=SMというイメージがあるが、Hajime Kinoko氏の緊縛からはアート性の高さがうかがえる。そのためかHajime Kinoko氏の緊縛を見た女性の多くが「縛られてみたい」と言う。Mではないノーマルな女性たちが言うのだ。縛られる女性を見て「痛そう」ではなく「キレイ」だと感じるのだろう。緊縛が必ずしも被虐行為ではないということをHajime Kinoko氏の緊縛は教えてくれる。
緊縛の歴史は江戸時代に罪人を拘束することから始まった。捕らえた罪人が暴れないように、しかし死んでしまわないように研究された。捕縄術という日本の武術のひとつだ。海外では縄が使われることがなく手錠が使われた。日本独特の文化である緊縛は「KINBAKU」として海を渡っている。そして拘束のための緊縛ではなく新しいアートとして捉えられ始めている。
Hajime Kinoko氏は言う「アートとしての縛りを確立したい」と。
そのために多くの人たちに見てもらうことを考えて、常に新しい表現方法を生み出している。ため息が出るほどエロティックなもの、思わず笑ってしまうコミカルなもの、絵画をモチーフにしたものなど多岐に渡る。モデルも裸の女性だけではない。ポップな服を着たカワイイ女の子、個性的なおじさん、体重100kg超の女性、妊婦、ミュージシャン。人だけではない、富士の樹海の木や大きな岩を縛ったこともあるほどだ。
今年8月には、アメリカネバダ州で年に一度開催されるビッグイベント「Burning Man」にオフィシャルアーティストとして助成金を受け参加した。40名を超える世界中の緊縛仲間たちと一緒に巨大なインスタレーションと純和風な緊縛を披露したそうだ。電気、ガス、水道といったライフラインもなく、電話もネットも繋がらない砂漠のど真ん中で、「アートとしての緊縛」に挑んだ。
これからも、ストイックさとチャレンジ精神から生み出される見たことのない新しい作品と、なによりあのチャーミングな笑顔で多くの人を魅了することだろう。